2018年のカジノ法案(IR整備法)成立後、国内初のカジノ開業に向けて、各自治体が動き始めました。
日本最初のカジノ開業の候補地は、最大3か所と定められており、現在は大阪府・市のみ国からの認定を受けています。
もう1つの候補地である長崎県は、2022年4月に計画を申請済みですが、未だ審査継続中となっています。
この記事では、現在IR計画が進行中の自治体や、今後カジノ開業の可能性がある自治体について、最新情報をまとめて解説します。
長崎県・佐世保市【ハウステンボス】
長崎県は人口や雇用の減少、財源不足などの問題を打破するため、早期からIR誘致を推進してきました。
IRには地元産業の活性化や雇用創出などが期待されているのはもちろんですが、元々九州は世界遺産や温泉地などの観光資源が豊富な地域です。
長崎が誘致に成功すれば、周辺地域への集客の相乗効果が見込まれるため、九州全体を上げて長崎IRを支援しています。
九州7県と山口・沖縄県知事と経済団体代表者らからなる「九州地域戦略会議」では、公的機関と連携したギャンブル依存症対策や観光人材の育成を全国に先駆けていち早く実施。
ほかにも送客や資源調達の仕組みの検討を進めるなど、「オール九州」としてIR誘致に向けて取り組んでいます。
IR区域認定申請に計画を提出したものの、2023年5月時点でまだ認定は下りておらず、政府は長崎の計画については今後も審査を続けるとしています。
強み
- 中国・韓国から3時間程であり、アジア地域からのアクセスが良好
課題・問題点 出典:カジノオーストリアNEWS「NOMINATED FOR LICENSE IN JAPAN」
カジノ・オーストリアは、長崎IRのコンセプトとして「モダンジャパン(西洋文化と東洋文化の融合)」を掲げています。
九州・長崎の歴史的な文化を継承しつつ、オーストリアの伝統が調和した「平和都市長崎ならでは」の高級感のあるIR施設を目指していくとのこと。
総事業費は3,500億円とし、IR候補地となるハウステンボスに8軒のホテルを建設する予定ですが、やはり目玉となるのはカジノ。
オーストリア風のデザインによって「ヨーロッパ流の大人の社交場」をイメージしたカジノ建築を提案しています。
長崎IRでは、9,900平米のカジノエリアにゲーミングテーブル220台、スロットマシン2,200台の設置が計画されており、これはカジノオーストリアが運営するカジノの中でも最大規模となる予定です。
試算されているカジノの粗収益は1,500億円で、そのうち長崎県への納付金額は約310億円を想定。
年間1万人ほどの雇用創出も見込まれており、長崎がIR候補地に認定されれば九州全体の経済を活性化させる起爆剤となるでしょう。
初期投資額 | 約3,500億円 |
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年間来場者数 | 約840万人 |
年間売上 | 約3,200億円 |
雇用者数 | 約30,000人 |
都道府県納付金(府・市合計) | 約310億円/年 |
カジノの広さ | 9,900平米(約12,000㎡) |
佐世保市にある「ハウステンボス」は、ヨーロッパの街をテーマにした「日本一広いテーマパーク」で、総敷地面積はディズニーリゾートの約1.5倍にものぼります。
100万本のチューリップやアジア最大級のバラ、1年中楽しめるイルミネーションなどが人気ですが、1992年の開業以来赤字続きで2003年には会社更生法を申請し経営が破綻。 HISが再建に乗り出した2010年には半年で黒字化を達成しましたが、新型コロナウイルスによる休園・時短営業の影響を受けた2020年の入場者数は前年の半数近くまで落ち込みました。
2020年10月~2021年3月の中間決算では、売上高・入場者ともに減で2億1,800万円の損失が出ており、現在は厳しい経営状況となっています。
長崎IRはハウステンボスの立て直しという側面もあることから、西側の約31ヘクタールをIR予定地として使用し、誘致に成功すれば年間100~200万人の来場客増加が期待されます。
また、ハウステンボスは九州の主要観光土地である博多から特急で1時間45分、長崎市内からでも快速・バスで1時間ほどといったアクセスの悪さが課題となっていました。
このデメリットを解消するため、ハウステンボス駅にあるJR大村線に新たにトラム (路面電車、モノレール等)の導入が検討されています。
さらに外国人観光客をより集客しやすくするため、長崎空港とIR区域を結ぶ高速船の運航も計画しているとのことです。
長崎県が申請中の計画では、開業時期は「2027年秋頃」としています。
しかし2022年4月に国へ区域整備計画を申請して以降、2023年春時点でまだ認定が下りていません。
IR事業の資金調達先の1つである「クレディ・スイス」の経営不安が広がっていることが、審査が長引いている要因なのではないかと言われています。
今後認定が下りた場合も、審査期間が大幅に延びていることから、開業時期の再検討が必要になると考えられます。
カジノオーストリアは、オーストリア政府が運営するカジノ企業であり、現在は世界35カ国、300カ所以上でカジノ施設やロト、宝くじ運営などを手掛けています。
国営企業であるため極めて厳しい監査を受けてゲーミング事業を運営しており、世界のカジノグループで唯一、贈収賄防止マネジメントシステムの世界標準規格を取得している、ヨーロッパで最高の権威を持つ「国際ゲーミング賞」を4度受賞しているといったことから、かなり信頼性の高い企業であると言えるでしょう。
また、オランダでのカジノ開業に携わった経験からハウステンボスとの親和性も高く、ホテルヨーロッパやパレスハウステンボスなど既存の建築物は改修して活用することを提案しています。
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大阪・長崎が誘致への工程を着々と進める一方で、当初はIR誘致を検討していたものの、さまざまな事情から見送った候補地もあります。
しかし、中には「今回の申請は見送ったものの、将来的には再度チャレンジする」といったスタンスの候補地もあるので、ここでは有力とされていた候補地や次回誘致に挑む可能性が高い候補地について紹介します。
和歌山市【和歌山マリーナシティ】
和歌山県は和歌浦湾上に位置する「和歌山マリーナシティ」へのIR誘致を目指し、2021年7月にほかの候補地に先駆けてクレアベストグループを事業者に選定。
申請に向けて区域整備計画の作成を進めてきましたが、IR誘致について最終的な審議を行う2022年4月の県議会において区域整備計画が否決されたことから、誘致を断念しました。
市議会では賛成多数で区域整備計画が可決されるなど順調に思われた和歌山IRでしたが、県議会では約4,700億円となる初期投資額の調達計画が不透明であることが問題視され、反対多数となりました。
仁坂吉伸和歌山県知事はIR計画が白紙になったことについて「別の手段で和歌山県の衰退を止める責任があると考えている」とコメントした一方で、「県議員からは『IR誘致自体は賛成だが、今回の資金計画では不安が残るため反対した』という声が少なくはなかった。和歌山県が未来永劫IRをあきらめる必要はない」と、今後改めて誘致に臨む可能性も示しています。
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神奈川県・横浜市【山下ふ頭】
横浜は2019年にIR誘致を正式に発表。大阪に立候補していた事業者が横浜への参入に転向するなど、有力視されていた候補地です。
しかしその一方で、地元経済界に強い影響力を持つ横浜港ハーバーリゾート協会・横浜港運協会・市民などからの反対が非常に強い土地でもありました。
2021年8月の横浜市長選では、IR誘致を推進してきた林文子前市長を破り、カジノ反対派である山中竹春氏が当選。
2021年9月16日に正式に撤退を表明したことから、提案審査に進んでいた「ゲンティン・シンガポールとセガサミーホールディングス」「メルコリゾーツ&エンターテインメント」の2者は参加中止を発表しました。
10月1日には市のIR推進室も廃止されましたが、山中市長は横浜の経済対策として「カジノ抜きの山下ふ頭再開発案」を検討していく考えを示しています。
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北海道【苫小牧市・留寿都村】
北海道ではIR誘致に名乗りを上げた地域が複数あり、各候補地合同で「北海道IR推進連携協議会」を発足させるなど積極的な活動を行なっていましたが、鈴木直道北海道知事は環境アセスメント(事業の実施が環境に及ぼす影響を総合的に評価する制度)の結果から、誘致に慎重な姿勢を見せていました。
2021年3月8日、新型コロナウイルス感染拡大による事業者の経営状況の悪化を懸念したことから鈴木知事は、「十分な検討期間が確保されたとはいえない」として誘致申請を正式に見送ることを発表。
しかし、「IRに挑戦するという考えに変わりはない」として、約7年後となる2020年代後半の誘致区域数の再検討に向けて意欲も見せています。
苫小牧市は、新千歳空港に近い植苗地区の民有地883ヘクタールを予定地として、森林や湖に囲まれた自然豊かな環境を活かした「自然共生型IR」をコンセプトに打ち出していました。
高速インターや特急停車駅からも近いほか、大型客船が寄港可能な港湾もあるなど交通アクセスも良好な土地でしたが、希少野生動物の生息が判明したことを理由に2019年11月、鈴木知事がIR誘致見送りを表明。
岩倉博文苫小牧市長は誘致推進の姿勢を崩さず、道に再検討をはたらきかけていましたが、2021年3月に正式に見送りとなりました。
小樽、苫小牧、釧路に続く候補地として誘致に向けた取り組みを行っていた留寿都村は、約850室の宿泊施設やスキーコース、ゴルフコースを備えた通年型のリゾート施設を備えていることから、開発に要する時間が短いことをメリットとして掲げていました。
しかし、当時IR担当内閣副大臣だった秋元司衆院議員が、留寿都でIR事業を計画していた中国企業「500.com」から賄賂を受け取っていたことが発覚し2019年12月に逮捕。
コンソーシアムとして共にIR計画に携わっていた「加森観光」の会長も贈賄罪で在宅起訴されたことから、「マイナスイメージを払拭するには相当な期間を要する」と2020年3月にIR誘致凍結を決定しています。
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千葉市【幕張】
千葉市が候補地とした幕張新都心は、広大な土地と大規模なMICE施設、幕張メッセなどの集客施設などをすでに備えており、成田国際空港も近いことから「IRが成立しうる」と考えられていました。
与党系議員からも過半数の賛成を得たことで本格的に誘致の検討に入りましたが、国が公表した申請期間が想定より短く準備が間に合わないこと、2019年に千葉県を襲った台風15号による被害からの復興を優先することを理由に挙げ、2020年1月に熊谷俊人千葉市長が誘致見送りを発表しています。
しかし、広い敷地と多種多様な施設を有する幕張新都心は千葉市の経済発展に不可欠なエリアなので、将来的にIR誘致が可能かどうかについては引き続き研究をしていくとしています。
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誘致撤退関連ニュース
有力候補地とされていた神奈川県・横浜市、北海道、千葉市が撤退したニュースはカジノ研究所内でも紹介しています。
各候補地が撤退した詳細な理由や、状況などを掲載した誘致撤退関連の記事をまとめました。
ほかにも、誘致への動きが見られたものの、今回の区域認定申請には参加していない候補地があります。
特に東京都・愛知県の2自治体は、新型コロナウイルス対策などでIRに関する取り組みを一時的に中断しており、正式に撤回を表明してはいません。
今後、新型コロナウイルスが収束し検討作業が再開されれば、7年後の区域認定見直しで有力候補地として誘致に名乗りを上げる可能性が高いとみられています。
それぞれのIR建設予定地や現在の状況などについても、くわしくチェックしておきましょう。
東京都【お台場】
1999年当時、東京都知事だった石原慎太郎知事が「お台場へのカジノ誘致」を掲げたことでIR法案について議論されるようになったため、東京都は日本でのカジノ解禁のきっかけとなった土地であるといえます。
小池百合子現都知事は、「メリット・デメリットの両面について検討する」と慎重な姿勢を見せながらも、2021年度の都予算にIR調査費1,000万円を計上。 構想中の都心部再開発計画に参加している事業者からIR計画提案書も提出されていましたが、2021年7月に検討作業の休止を発表しました。
小池知事は誘致検討の休止について、新型コロナウイルス対策を優先することを理由に挙げています。
しかし、候補地となっているお台場周辺の湾岸エリアには、東京オリンピックの競技場として建設されたものの、今後の利用方法が未定で赤字が見込まれている施設が複数残されています。
これらの施設とお台場一帯の未利用地をIR建設地として有効活用すれば、大きな収益を上げられることから、今後積極的な誘致に乗り出す可能性は高いといえるでしょう。
強み
- お台場は羽田空港が近いほか電車・バス・自動車でのアクセスもしやすく、国内外から集客しやすい
課題・問題点
- 新型コロナウイルスの感染拡大による影響が大きい
- 都議会内で反対意見が多い
愛知県・常滑市【中部国際空港島】
愛知県の知多半島に位置する常滑市は、日本六古窯にも数えられるほど陶磁器が有名な町です。
2005年には伊勢湾上の人工島に、アジア・ヨーロッパ主要都市やハワイとの国際便が往来する中部国際空港(セントレア)が開港。
さらに、2019年には愛知国際展示場も開業したことで周辺の交通網が非常に発達しており、名古屋からも電車で30分ほどというアクセスの良さが強みです。
愛知県では中部国際空港と周辺エリアにおいて、MICE施設を中心とした国際観光都市を実現する「あいち・とこなめスーパーシティ構想」を掲げており、IRについても事業者から意見を募っていました。
しかし、大村秀章県知事は常滑をIR候補地に推薦しながらも誘致には慎重であるほか、現在では新型コロナウイルスの影響もあり新しい動きは見られていません。
元々「あいち・とこなめスーパーシティ構想」とIRは別のプロジェクトですが、今後検討作業が進みIR誘致が決定した場合は、この2つが連携し合ったうえで実現する可能性は高いといえます。
強み
- 居住者が少ないエリアなので、治安に対する懸念が少ない
- すでに国際会議場や交通網が整備されている
課題・問題点
愛知県・名古屋市【金城ふ頭】
名古屋市がIR建設地候補として挙げている名古屋港・金城ふ頭周辺は、名古屋国際会議場(ポートメッセなごや)や名古屋港水族館があるほか、近年ではレゴランドやリニア鉄道博物館もオープンするなど再開発が進むエリアです。
しかし、ナガシマスパーランド周辺もIR施設として整備したいという考えから、河村市長が一方的に三重県・桑名市を候補地として指名したことで、誘致意向のない三重県側から抗議を受ける事態となりました。
これを受け、政府のIR推進本部は「住民の合意形成や県警との連携などは設置場所の自治体が担う。責任の明確化のためにも、県外の自治体が越境することはあり得ない」とコメントを発表しています。
さらに、2020年8月より名古屋国際会議場の改修工事が優先してスタートしたことから、IR計画は難航。
河村市長は、常滑を候補地として検討している県側とは協同しない方針を示していますが、先ほどの政府コメントからも推察すると、名古屋市が独自にIR誘致を進めるのは非常に困難ではないかと考えられます。
強み
- 居住者が少ないエリアなので、治安に対する懸念が少ない
- 名古屋市内の繁華街エリアからのアクセスが良好
課題・問題点
- 県と連携せずにIR誘致を推進するなど、自治体としての足並みが揃っていない
47都道府県 IR誘致の表明状況まとめ
ここまで紹介した候補地以外にも、市や経済団体が誘致に向けて動いていた地域があります。
47都道府県のIRへの意向や状況について、一覧でまとめました。
北海道・東北 |
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関東 |
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中部 |
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近畿 |
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中国・四国 |
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九州・沖縄 |
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日本最初のカジノ開業の候補地は最大3か所とされていますが、最終的にIR整備計画を申請したのは大阪府・市と長崎県の2か所のみです。
2023年5月時点で、大阪府・市は正式な認定を受けていますが、長崎県は未だ認定が下りていません。
今後、大阪ではIR・カジノ開業に向け、実施協定の締結やカジノ免許申請、工事の開始などの準備を進めていきます。
大阪の計画では2029年中の開業を目指していますが、認定時期の遅れに伴い、開業時期も後ろ倒しになる可能性があります。
今後の開業までのスケジュールに要注目です。